My Boy Vol.1 ―― Keiji.K
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朝は弱い。昨日もレモンサワーを飲み過ぎたし、とどめのラーメンで胃ががっつりもたれてる。やっぱりもう若くはねぇなぁ。仕事が昼からでよかった。暫くベッドに潜ってよう。
ピンポーン
誰だよ、朝っぱらからうっせーな。一人で寝るには大きすぎるベッドの上で寝返りを打ち、シーツを頭から被った。
ピンポーン
ん? 部屋のインターホン? オートロックを抜けてるってことはマネージャーか?
「やべぇ、時間、間違えちまったか‥‥‥」
しょうがない。目を擦りながら重い身体を起こす。上半身裸のまま、そこに放り投げていたスウェットのズボンを履きながら玄関に向かった。汗をかいててベタベタするし、尻がかゆい。
「わりぃ、シャワーだけ浴びさせて」
玄関を開け、頭をかきながらマネージャーに向かってそう言った。
が、そこにマネージャーはいなかった。‥‥‥というか、誰もいなかった。
「ん?」
どういうこと?
ツンツン、ツンツン。
スウェットのズボンを引っ張られる感触に、下を向くと‥‥‥
リュックサックを背負ったガキ、失礼、小さな男の子が一人。何歳くらいかわかんねぇ。幼稚園くらいか?
「はーっ?」
ツンツン、ツンツン。ただ驚くだけの俺にもう一度ズボンを引っ張るガキ、失礼(以下略)。
「っんだよ」
つい大きな声を出してしまい、ガキがビクッと肩を震わせた。
「わりぃ」
頭をかきながらガキに謝った。
「親とはぐれたのか? 名前は?」
ガキの頭に手をのせて尋ねると、ガキは口を真一文字に結んだまま、胸に抱えていた紙を俺の前に差し出した。
「ん?」
差し出された紙を広げたら、そこには短い文章が書いてあった。
【つかさはあなたの子です。今さらごめんなさい。頼れるのが啓司しかいないの。どうかつかさをよろしくお願いします。啓司が引っ越ししていませんように。由宇】
懐かしい、由宇の字だった。5年前、この部屋から突然消えた女。
こっちを心配そうに見るガキの顔を見る。これが俺の子ども? 確かに由宇の面影があるが、これが俺の子ども?
「はっ? 嘘だろ。 由宇、どういうことだよぉ」
思わずしゃがみこんで頭を抱える。書き置きってことは由宇はここにはいないのか? なんの冗談だよ。
「ママー」
ちょうど頭の横。初めて聞くガキの声。
ガキを見ると、目に涙を溜め込んで、流さないように必死に堪えている。
「お前、捨てられたの?」
ガキの瞳から落ちまいと耐えていた涙が一粒、ポロリとこぼれた。それがトリガーとなって、我慢して無理やりに大きく開いていたガキの瞳が閉じ、顔がぐちゃぐちゃに崩れる。
「ママーー! ママーーー! エーンエーン」
ポロポロと崩れ落ちる涙。子どもって本当にエーンエンって泣くのな。ってそんなこと感心してる場合じゃねぇ。
「わー、泣くな、泣くなって!」
ガキの目からはどんどん水が溢れ出て、Tシャツを濡らしていく。そしてTシャツだけじゃなく、ズボンまでも‥‥‥
ん? ズボン?
「わっ! お漏らしかっ!」
「わーん、ママーーー! エーン!」
「待て! 待てっ、ガキ! じゃねぇ、つかさ!! 待ってくれ! 」
俺はそのままつかさを脇に抱え、風呂場にダッシュした。
「泣くな、つかさ! まずは脱げっ。えっ、うんち? わ、待て、待てって!」
わーーーーっ!!!
――これが、つかさと出会った、俺たち2人のほんとのほんとの、初めの第一歩。
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