My Boy Vol.3 ―― Keiji.K

 

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*****

 

 「つかさ、どした?」

 ドアノブに手をかけたとき、反対を握っていた小さな手の力が強まった。文字通り、"ギュッ” と。

 

――朝、芸能人の俺を迎えに来たのはマネージャー。見たこともない子どもが俺の隣に並んでいたら、そりゃびっくりもするだろう。ワーワーとうるさいやつに『あとで説明する』とだけ言い、迎えの車に乗り込んだ。

 事務所につくと、マネージャーに由布のことを調べてくれるように頼んで別れ、俺ら二人は今、控え室のドアの前。

 

「もしかして、怖い? 」

  不安そうに俺を見上げるつかさの頭をポンポンと叩く。

 

「怖くなんか、ない、もん」

 

「ふっ、大丈夫だって」

 腰を下ろし、つかさと目線を合わせる。 

 

「中にいる奴らは、俺の仲間。ちょっとゴツいけど、みんないい奴だから、な」

 小さく、コクンと頷いて応えるつかさ。

  

「ほら、笑えよ」

 ほっぺをプニッとつねってやると、『いひゃい』とか言うかわいい奴。

 

「よし、行くぞ」

 そのまま手をつないで、勢いよくドアを開けた。

 

「はよーっ」

 そこには、いかにも『いかつい』男どもが、すでに5人とも勢揃い。

 

「啓司、遅刻だよ……でさ、あそこのステップの……って、ん??」

 青い髪を揺らし笑顔で俺をたしなめたのは、このグループのリーダー、ケンチ。中断していたアキラとの会話を続けようとしたが、小さな珍客に気づき、こっちを二度見した。なに、その顔(笑)。

 

「なに、なに、その子、どこの子?」

 ケンチと同じタイミングでつかさに気づいたアキラ。こちらに近寄り、つかさの前でしゃがみこみ、頭を撫でた。

 

 後ろでは、ネスミスと将吉がこちらをじっと見ている。ネス、目を丸くした顔がバカっぽい。将吉、目力が強すぎて怖い。

 

 ソファで優雅にコーヒーを飲んでいる哲也が、いつものように甘ったるい声を出した。

「啓司の隠し子だったりして~」

 

 ブッ! こいつ、相変わらず鋭い!

 

「……そう……らしい」

 頭をかきながらそう答えた。

 

「えっ?」

 哲也が聞き返した後、しばしの沈黙。そして……

 

「「「「「はーーーーっ!?? 」」」」」

 全員が一斉に奇声を発した。

 

「け、啓司くん?」 

「啓司さん! いつの間に!?」

 「ヤバいっす、ヤバいっすよ、啓司さんっ!!」

 慌てて詰め寄ってくるアキラ、ネス、将吉。

 

 あまりの勢いに、つかさがびっくりして俺の後ろに隠れた。

 

「け、けいじくん……」

 

「待て、みんなちょっと待てって!」

 

「マジで言ってるの~? 嘘でしょ~?」

 ソファに座ったままの哲也は、口調は面白がっているものの、目は笑ってない。

 

「啓司、どういうこと?」

 ケンチがあえて落ち着いた声で俺に尋ねる。

 

 つかさがその声に反応し、俺のシャツの裾をぎゅっと握った。 その手を握り、腰を落とす。

   

 「つかさ? さっき言ったろ、これが俺の仲間。挨拶できる?」

 

 俺の目を見て小さく頷いたつかさ。背中をそっと押してやると、みんなの方に向き直し、まっすぐ立ってペコリとお辞儀をした。

 

「つかさです、よろしくお願いします!」

 勇気を振り絞った大きな声。頑張ったご褒美に頭をくしゃくしゃに撫でてやる。……が、みんながつかさを見たままリアクションがない。

 

「けいじくん……」

 不安そうなつかさの声。マジか、こいつら大人げない。

 

「おまえらなぁ……」

 

「……か、かわいい」

 ボソッとアキラがつぶやいた、その瞬間。

 

「「「「「かわいい!!!」」」」」

 

「うっせーよ、おめーら! つかさがびっくりするだろうが!」

 

「待って、待って、もう一回やって」

 つかさに向けてパシャパシャとシャッターを押し始めるネス。

 

「おじちゃんが肩車しようかー?」

 ニコニコしながら近づいてくるアキラ。

 

「ぐすっ」

 ヤバい、つかさがそろそろ限界。

 

 そして、決定打はやっぱり将吉だった。

「ヤバい! マジでヤバいっす! つかさ、ゲキかわいいっす!!」

 目力強いままでつかさに駆け寄るなっ! ほら、つかさが後ずさっただろう!

 

「ぐすっ、ぐっ」

 ヤバい、つかさがヤバい!

 

「何歳っすか! 抱っこしていいっすか!」

  つかさに顔を寄せるな! 将吉、目っ! めっ!

 

「待て、待てって、将吉!」

 

 それは、将吉がつかさに両腕を伸ばした瞬間だった。

 

「うわーんっっ! けいじくーん!」

 俺にしがみつくつかさ。

 

「「「「「将ーー吉ーーーーー!!!!」」」」」

  全員で将吉にシャウト。

 

「大丈夫だから、こいつはお前を取って食ったりしない。大丈夫だから、つかさ」

 泣いたままのつかさを抱っこし、背中をさする。

  

「わ、わ、ごめんなさい」

 将吉が慌てて謝ろうと近寄るが、

 

「わーん、わーん!」

 余計に逆効果。つかさは俺の肩に顔を埋めたまま。

 

「「「「将ーーー吉ーーーーーー!?」」」」

 

「……ほんと、ごめんなさい」

 しょぼんとする将吉。最初からその目で来いよ。

 

「大丈夫。怖いおじさん、あっちにやるから。ほら、将吉、しっしっ! ハウス! 」

 部屋の隅っこで肩を丸める将吉は、完全に『待て』ができずに怒られた子犬。

 

「ぐすっ、ぐすっ」

 

「ほら、もう泣きやめ。あとであのおじちゃんに飴ちゃんでも買わせるから 」

 いまだに泣いているつかさの頭を撫でる。

 

 「あのー、お取込み中に申し訳ないんだけど。啓司、ちょっと」

 この修羅場に割って入ったのはマネージャー。

 

「おう。ケンチ、つかさ頼める?」

 

「あぁ。後で詳しいこと聞かせろよ。じゃぁ、つかさくん? おじちゃんたちと一緒に遊ぼうか。おのおじちゃんは、あんな目をしてるけど本当は怖くないからねー」

 ケンチは、ファン曰く『全人類を虜にする麗しい微笑み』(俺調べ)でつかさに両手を広げた。やっぱり虜にされたつかさも大人しくそれに従い、その身体を俺からケンチの腕に移した。

 

「つかさ、待ってろ。ちょっとこの人と話してくるから」

 ケンチの腕に抱かれながら、つかさは不安そうに、でもしっかりと俺を見て頷いた。

 

***** 

 

 俺とマネージャーは空いている控室に移り、俺からは朝の出来事、由宇のこと、つかさが俺の子供かもしれないことを伝え、マネージャーからは由宇について分かったことを教わる。

――由宇が病気で亡くなったこと。つかさは、一時的に児童相談所に預けられていて、今日から養護施設に移る予定だったこと。その日につかさがいなくなり、児童相談所はつかさを探していたこと。

 

「由宇が、死んだ?」

 信じられなかった。

 

「あぁ、残念だけど。……由宇さん、親戚とかいないのかな」

 

「小さい頃、両親が離婚して母親に引き取られたが、その母親はもう亡くなってる。父親はどこにいるかも分からないし、兄弟もいないはずだ」

 

「そうか。じゃ、つかさくん、一人ぼっちだね。どうする、啓司?」

 

「どうするったって……」

 まだ、頭がついていかない。由宇が、死んだ。

 

「とりあえず、児童相談所には、僕が由宇さんの友人で、つかさくんを預かっていると伝えておく。これからのことは社長にも相談しなきゃいけないだろう。その時は僕も行くから」

 

 由宇が死んだ。つかさはひとりぼっち。由宇が俺につかさを託した。つかさは一人で俺のところまできた。由宇が死んだ、由宇が死んだ、由宇が死んだ……

 

「ほら、つかさくんが待ってるよ」

 マネージャーに肩を叩かれて、ようやく、我に返った。

 

*****

 

「つかさー、大丈夫かぁ?」

 そーっとそっと、みんながいる控え室のドアを開ける。

 

 案の定、目の前にいるのは、やつらに泣かされているつかさ……ではなくて。

 

「おかえりなさい、けいじくん!」

 ニコニコのつかさと

 

「「「「「おかえりー!!」」」」」

 つかさ以上にニコニコのおっさん5人。

 

 「はっ?」

 ケンチの膝の上に乗り、溢れんばかりの笑顔でチョコレートケーキを頬張るつかさ。ケンチが聖母のような微笑みで、つかさの頭を優しく撫でている。

 

「てつやくん、ケーキおいしいっ!」

 ニタッて前歯を出して笑うのは……誰に似たんだ、この人たらしめっ! ほら、見てみろ、哲也の顔!

 

「今度、お店に出す試作品なんだ。まだたくさんあるよ~」

 哲也、甘ぇよ! お前の声はハニーラテかっ!

 

「まじっすか!?まだもらっていいっすか!?」

 そして、つかさの横で同じようにチョコケーキを貪っているホッキョクグマ、もとい、将吉。

 

「だめ~。これはつかさにあげるんだから。将吉はいっつも食べてるじゃん~」

 

「……はぁい。ごめんなさい」

 将吉がとても分かりやすく肩を落としている。何だよ、その迷える子羊みたいな目は。その目でつかさに近寄れば、つかさも泣かずに済んだのによ。

 

「ぼく、もうおなかいっぱいだから。ほら、しょうきちくん、どうぞ!」

 つかさが将吉にケーキを差し出した。

 

「いいの? ありがとう!」

 目を輝かせる将吉よ、お前、4歳児に気を使われてるぞ。

 

「え、えらい、えらいぞ、つかさ!!」

 アキラが急にでっかい声を出して、つかさを抱きしめた。いや違う、あれは羽交い絞めだ。

 

「いたい、いたいよ、アキラくん」

 

「あ、ごめんごめん! でも、なんていい子なんだ」

 目をうるうるしながらつかさの頭を撫でるアキラ。お前はどこのおっさんか。

 

 「将吉くん、はい、アーン」

 つかさはニコニコしながら、さっき食べた二個目のチョコケーキを将吉に食べさせてる。将吉にかかればかわいらしいチョコケーキなんて一口でおしまいだ。

 

 ネスはっと……パシャパシャ、シャッターを切る音しかない。お前、一体写真を何枚撮るつもりだよ…………その写真、寄越せよ、絶対に寄越せよ!

 

「ふっ」

 つかさがもうすっかり懐いてやがる。これなら、大丈夫かもしれない。

 

「でも本当にいい子だよね。親の愛情をたっぷり受けて育ったんだね。優しいお母さんなんだろうな」

 ケンチが目尻をくしゃくしゃしたまま独り言のようにつぶやいた。

 

「……ゆぅ……」

 

「ん? 何、啓司?」

 

「由宇だよ、母親」

 

「由宇ちゃん? 由宇ちゃんの子ども?」

 すぐに由宇の名前に反応した哲也。デビュー前は由宇も一緒によくみんなで飲んだっけ。

 

「由宇さん、帰ってきたんですか!?」

 ファインダーを覗いていた顔をこっちに向けるネス。丸い目がますます丸くなって、まるで刑事役をよくやっていた外国人の俳優のようだ。

 

 「んにゃ。朝、こいつだけ家にやってきた」

 

「由宇さんは?」

 ネスがおそるおそる尋ねる。こいつはこういう時の勘は鋭い。

 

「……死んだとよ」

 

「え?」

 アキラが思わず声を出した。

 

「どういうこと?」

 哲也が眉根を寄せてこっちを見上げる。

 

「まだ、よく、わっかんねぇ、けど」

 こめかみをかきながら、少し考えた。

 

「……けいじくん?」

 つかさがいつの間にか傍に来ていて、俺のシャツの裾を引っ張った。

 

「ん?」

 

「けいじくん……ぼく、じどうそうだんじょにかえる?」

 下唇を噛んで、心配そうな上目使い。

 

「おいで」

 笑ってみせたあと、両手を広げてつかさを抱き上げた。目の前には、潤んだ小さな薄茶の瞳がこちらを見つめている。

 

「帰りたくない?」

 

「うん」

 

「じゃ、一緒に暮らすか?」

 

「……いいの?」

 

「あのおじちゃんたちにも、お願いしなきゃならないけど」

 つかさと一緒にあいつらの方を向くと、呆けた顔が5つ。

 

「あははっっ。アホ面ーーー!!」

 

「ちょっと、啓司、ちゃんと説明して」

 さすがリーダー、ケンチが収拾にかかった。

 

「あぁ。するする」

 

「けいじくん、だいじょうぶ?」

 

「あぁ。大丈夫じゃねぇ?」

 心配そうにこちらを伺うつかさの頭をくしゃくしゃにしてやった。大丈夫。こいつらとならなんとかなるかも。いや、こいつらだからこそ、これからも一緒にやっていける。つかさも一緒に。

 

――これが、俺が『家族』をもった、初めの第一歩。

 

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